パリ五輪の出場権をかけた1年間のレースが5月にスタート。元世界ナンバーワンの桃田賢斗は、国内4番手から逆転でのパリ五輪出場をねらう。五輪出場権を得られるのは最大2枠(シングルスでは世界ランク16位以内に2名以上がいる場合は2名の出場枠を獲得)。ここからの逆襲を誓う桃田賢斗の独占インタビューを、バドミントン・マガジン7月号から抜粋してお届けする。
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「相当厳しい戦いですけど、だからこそ楽しみたい」
――ここからあらためて世界の強豪たちに挑んでいくことになりますが、現在の男子シングルスの勢力図について、桃田選手はどう見ていますか。
桃田 ビクター・アクセルセン(デンマーク)の一強じゃないですか。若い選手、勢いのある選手とかいますけど、積み上げてきたものがすごいというか。試合の点数を見れば、明らかに違う。勝ちすぎて、2大会連続で優勝できなかったら、「アクセルセン、どうした?」って思われる。そんなふうに思われる選手、いないじゃないですか。みんなの評価が高くなりすぎて、多分、本人もそれで気持ちのコントロールが難しくなっているんじゃないのかなっていうのは、見ていてちょっと感じるところがあります。
――同じ立場を経験した桃田選手ならではの視点ですよね。2019年の桃田選手も、「勝って当たり前」と見られていたし、優勝しなかったら「どうした?」と思われていましたよ。
桃田 全然、そんなんじゃないですよ(笑)。あとは、オリンピックレースが始まると、中国勢が強くなってくるんじゃないかなというのはやっぱり感じますね。
――中国勢だと誰が気になっていますか。
桃田 李詩澧(リ・シフェン)、石宇奇(シー・ユーチー)ですね。李詩澧は、諶龍(チェン・ロン)のようなプレーをするイメージです。長いラリーをしながら、低い展開やヘアピンも器用にこなして、チャンスまで待てる。背が高いし、簡単に崩れなそうなプレーをする。堅いですね。
――その中で、桃田選手は自分自身の可能性というのをどんなふうに考えていますか。
桃田 正直、ちょっと前までは、可能性はゼロだと思っていました。きついだろうな、厳しいだろうなっていうのはすごく感じていたんですけど、最近は、(可能性が)ちょっとあるかもしれないなと思えてきました。自分自身にも、ちょっと自信がついてきたというか。全英オープン以降、海外の選手と試合をしていないので、実際どうなるかはわからないですけど……。調子に乗っているわけではないんですけど、「もしかしたら…」という気持ちはあります。
――ドイツOPの石宇奇戦は、そんな手応えを感じさせる試合でした。
桃田 そうですね。久しぶりの感覚で試合ができたなと思います。
――具体的に、何がよかったのでしょう。
桃田 めっちゃ集中できましたね。今まではミスしたら、ちょっと落ち込んで、どこかで集中力が切れて、いろいろなものが目に入ってきたり…。それが、その試合は、もう完全に集中して、試合に入り込んでいました。
――集中の仕方みたいなものを体が思い出したような感じがあった。
桃田 そうですね。その集中も、視野が狭くなるような感じでもなく、周りがよく見えながらも、気持ちと目がブレていないという感じでした。
――いい手応えを得られたわけですね。では、五輪レースでライバルとなる日本選手たちについては、どのように意識していますか。
桃田 日本の選手たちも世界トップレベルの力を持っているので、16位以内に4人入った場合は、どうなるんだろうとかはすごく思います。本当にランキング1ケタ、8位くらいに入らないと、オリンピックに出られないというレベルになってくるんじゃないかなとは思っていて。相当厳しい戦いですけど、だからこそ楽しみたいなという気持ちもすごくあります。
――厳しい戦いこそ、楽しみたいと。
桃田 はい。1年間試合ばっかりで、絶対しんどいですけど……、でもちょっと楽しみな部分はあります。
――ちなみに、桃田選手自身が試合を楽しめるときの最低条件は何でしょう。
桃田 なんだろう…。自分が思う最低ラインのプレー以上はしないと、楽しめないかなと思います。ミスばっかりしていてもおもしろくないし、「これができた」「こういうのもできるようになった」っていう発見がないと楽しくない。今はそれができているのかなって。自分がイメージしているプレーができたときに、「もっとこうしよう」と思えてくる。まだまだですけど、少しは自分が納得できるプレーができてきているという感覚はあります。
「まずは、この1年を戦い切って」
――桃田選手自身の今後にキャリアについてもお聞かせください。先日も「今年29歳。あと10年以上できるわけじゃない」という発言もありました。キャリアに関しては、「ここまではやりたい」など何か展望していることはありますか。
桃田 いや、今はレースまでしか考えていません。それくらいの気持ちですね。
――それほど先のことは…。
桃田 見ていないですね。とりあえず、この1年間を戦い抜いて、そこで決めようかなと。……でも、引退する選手って、どうやってそのタイミングを決めているのかっていうのは、すごく気になっていますね。
――その残りのキャリアの中で、桃田賢斗として何を残したい、何を伝えたいというものはありますか。
桃田 自分しか経験していないことはたくさんあるし、自分にしか伝えられないこともたくさんあると思う。今はうまくいかないことの方がすごく多いですけど、そこから挽回して盛り返して…。今、諦めそうな人、逃げたくなりそうな人を勇気づけられるような存在になれたらいいなと思います。
ももた・けんと◎1994年9月1日生まれ、香川県出身。富岡第一中、富岡高を経てNTT東日本へ。15年に日本男子史上初となるスーパーシリーズ優勝。18・19年世界選手権優勝。19年全英オープン優勝。男子単では日本選手初となる世界ランキング1位に(18年9月~21年11月)。20年1月、マレーシア遠征中に交通事故に巻き込まれケガを負うも、復帰戦の同年12月の全日本総合で優勝。21年東京五輪では予選リーグで敗退。世界ランキング34位(6月20日付)。175cm。左利き。
取材・文/バドミントン・マガジン編集部