国内のランキング上位選手が集う2023日本ランキングサーキット(5月27日-31日/埼玉・サイデン化学アリーナ)。ここでは、準決勝が行なわれた大会4日目から、記者が取材したサイドストーリーをお届けする。
前回女王を襲った大きな重圧
「ミスをしても笑顔」の即席ペアに敗戦
表情を見れば一目瞭然、プレッシャーの天秤は完全に傾いていた。女子ダブルスでは連覇をねらった大竹望月(上写真・右)/髙橋美優(BIPROGY)が0-2で毛利未佳(七十七銀行)/今井優歩(YAMATO奈良)に敗れる波乱があった。
大竹/髙橋は、青森山田高時代から組んでいるペア。大竹が3年、髙橋が2年の2019年に全日本総合で10年ぶりとなる高校生ペアの8強入りを果たし、日本B代表に選出された。21年は代表から外れたが、昨年のこの大会で優勝して一度はB代表に復帰。今大会の目標は連覇、そして3度目のB代表入りだ。
B代表ペアも多くが国際大会出場のため不在で、2人が第1シードの優勝候補だった。前日の準々決勝までは、すべてストレートで勝利。連覇までの道のりは快調に見えたが、準決勝では動きが硬く、試合のペースをまったく握れなかった。対戦相手の毛利/今井は、この大会から組んだ即席ペア。ともにトップレベルの実業団で主力となる実力の持ち主ではあるが、活動拠点が異なり、大会前に2日間ほど合同練習をした程度。連係面では大竹/高橋が優位に立つはずだった。
ところが、ふたを開けてみれば、怖いものなしの毛利/今井が序盤から積極性を見せて試合を大きくリード。第1ゲームは、5点前後の点差を保ったまま押しきった。第2ゲームに入ると大竹/高橋もねばりを見せたが、勝負所の表情は対照的。後がなく硬い表情の前回女王は、終盤の17-19から3連続得点で20-19と逆転してゲームポイントを握った。20点目は、相手の毛利がサービスレシーブで上から打った球がアウトになったものだったが、即席ペアはミスで大きな1点を与えても笑顔でコミュニケーションを取るほどに充実していた。次の1点は、高橋がネット前から打ち上げようとした球がネットにかかって20-20の同点。緊張感が漂う中で積極性を貫いたのは、笑顔のペアだった。今井が強烈なジャンピングスマッシュをたたき込んでマッチポイントを握ると、続けて攻め切って22点目を奪取。毛利は「全体的には先手先手で、思いきってプレーできた。初戦から楽しみながら戦ってこられた。やはり、楽しむことが一番」と会心の勝利の手応えを語った。
一方、連覇を阻まれコートを離れた大竹/高橋は、悔し涙。大竹は「相手がずっと組んでいるペアではないので、序盤は様子を見ていた部分があるのですが、そこから自分たちがギアを上げたり、展開を変えたりしなければいけなかったのに、ズルズルと相手ペースでいってしまいました。2ゲーム目は、相手はミスをしても笑顔。こっちは余裕がない状況でしたし、ずっと相手ペースだったかなと思います」と肩を落とした。日本バドミントン界におけるトップ選手が個人戦でめざすのは、オリンピックを筆頭とする国際大会での活躍と、日本一を決める全日本総合のみ。昨今は、国際大会の過密化により、後者の存在感が薄れている状況でもある。「代表入り」がかなうかどうかは、競技人生で高い目標に迎えるかどうかの大きな岐路だ。意識しないことは難しい。高橋は「絶対に負けてはいけない、優勝がマストという気持ちが強過ぎました。どんな相手にも向かっていかなければいけない立ち場だし、1点、1本のラリーに集中すべきなのに、やってきたことが一つも出せず、挑戦もしないまま終わってしまいました」と空回りを続けた試合を振り返った。
女子ダブルスは、もう一つの準決勝でも、日本B代表の保原彩夏/水津優衣(ヨネックス/ACT SAIKYO)が敗れ、今季からペアを組んだばかりで気負いのない川添麻依子/小西春七(丸杉)が勝利した。重圧の怖さをあらためて痛感する1日を超え、最終日は無欲のペア同士が思い切ったプレーをぶつけ合う試合になりそうだ。
【サイドストーリー一覧】
取材・文/平野貴也
写真/菅原淳