【国内ニュース】「ガバナンスで日本の先頭を切るくらいの意識で改革を進めていきたい」 Jリーグ前チェアマンの村井満氏が日本協会の代表理事、副会長に就任

日本バドミントン協会は、1月22日、臨時評議員会および臨時理事会を開催し、サッカーJリーグ前チェアマンの村井満氏の理事就任が承認され、同日付で代表理事および副会長に就くことが決定した。

1月22日付で日本バドミントン協会の代表理事および副会長に就任した村井満氏

代表理事および副会長に就任した村井氏は、理事会後に取材に対応。「私にとっては、サッカーからバドミントンという大きな転身でありますが、スポーツ界で大変お世話になりましたので、恩返しをしたいという思いでおりましたところ、こうした重責を拝命しました。全力を尽くして対応していきたいと思います」とあいさつし、記者との質疑応答では今後の改革について熱く語った。

役員改選の6月の評議員会を経て、新たに会長職に就く見通しだ。

以下は、中村新一会長、朝倉康善副会長、毛利達彦専務理事も同席しての質疑応答。

――話があった経緯などは

村井 昨年12月の初旬だと記憶していますが、中村会長から、人事に関する意向があるとうかがいました。そのときは私自身が日本バドミントン協会の状況を十分に理解している段階ではありませんでしたので、私にとって門外漢である分野に対して、どこまでできるかという逡巡が多少ありましたが、日本スポーツ界に対して必ずや恩返ししたいという思いはありましたので、検討させていただくという返事をしました。具体的な話については、年が明けて、もう少し深い話をしました。

――中村会長が村井氏にお願いしたいと決断した経緯は

中村 本協会として、外部理事を招聘しなければいけないということから、外部の方から村井さんも含めて複数ご推薦をいただいておりました。その中で、ビジネス面やサッカーJリーグでのご活躍、人物的にもすばらしいということで、村井さんが適任であると判断をいたしまして、ぜひお力をお借りしたいと考えまして、お願いしました。

――第三者としてどのようにバトミントン業界を見てきたか。印象などは

村井 世界的に見ても、男女ともに高い水準の競技力を持ちながら、一方で、選手には苦しい思いを強いていたのではないか。いくつか不祥事があったことを報道で知りました。しかも、表現を借りますと、隠蔽体質と言われているような情報を目にすることになりました。スポーツはみんなものですし、開かれたもの。マネージメントの不作為や、数多くの課題が信用を失墜させているということであるならば、これは残念でならない。私もスポーツの当事者としてやってきましたが、自分自身はすべてを天日にさらすという思いで経営してきましたので、自分自身の経営観としては真逆にある。そんな思いも抱いておりました。

ただ、具体的な内情とか実情は、自分自身がまだ見ていませんので、これからこの世界に身を投じることで、課題や問題点のありかを自分で確認していきたいと思っています。

――信用を取り戻すために一番大事にしていきたいと思っていることは

村井 Jリーグ時代の8年間、ずっと言ってきたのは、「魚と組織は天日にさらすと日持ちがよくなる」。これは、Jリーグの従業員ならだれもが知る言葉だったと思っています。あらゆる不祥事、ハラスメントや経済的な不祥事は、多くが密室で行なわれているという認識です。風通しの悪いところ、人が見ていないところで起こります。徹底して透明性を高めていく。バドミントンも、多くの都合の悪いことも含めて開示していく。これが、私に課せられた使命だと思っています。

――東京五輪では結果がふるわなかった。現状の日本バドミントンの価値についてはどう感じているか

村井 確かに世界の頂点をねらうような選手たちが、必ずしも期待通りのメダルを手にできなかったという事実はあります。実際、日本サッカーも男女ともメダルをねらって、一番高いところに立つという思いでいましたが、競技会においては、思い通りにいかないことは多々ある。これはまた、次に向けて研鑽を重ねればいいと思いますが、ひとつ大きなポテンシャルは競技人口です。部活も含めて、若い人たちもバドミントンを楽しむ人たちが増えて、裾野が広がりつつあるということは非常に大きなポテンシャルだと考えています。手軽に、それほど極端なコストもかからず、身近なところでプレーを楽しめるという特長は非常に可能性を感じるところです。

また、あまり時差のないアジア各国において人気の競技です。アジアの中で、日本が一定のポジションを獲得することができれば、これもまた非常に大きな可能性を持っていると思っています。なによりも世界で戦える競技水準を選手たちが競っていますし、次々と新しい可能性のある選手が生まれていることも、大きな強みだと思っています。そうしたスポーツの現場を大切にしながら舵取りをしていきたいと思っています。

――Jリーグ時代にさまざまな改革をしてきたかと思うが、現時点で、考えていることがあれば

村井 まずは自分自身が全身全霊、この世界に身を投じて、現場をしっかり知る中で、判断を重ねていきたいと思っていますが、まずもってガバナンス改革が喫緊の課題だと思っています。司令塔となるような評議員会そして理事会といったところが極めて重要だろうと思っています。特に、理事会が果たしてしっかり機能していただろうかというところは大きな事項だったと思います。だいたいにおいて、交通渋滞は先頭がのろのろとしていることで起こると感じています。スピード感をもって、理事会改革ができるかどうかというのは、ひとつ大きなポイントだと思います。その改革の方向性として、やはり開かれた理事会になるためには、外の血を入れていく、多様性を重視していく、こうしたところから始めていければと思います。

――「外の血」として、具体的にどのような人材を起用したいなどの考えはすでにあるか

村井 具体的にどのような機能やどのような人材要件が必要かというのは、まだ自分の中で定まっていませんので、必要な条件を自分なりにふまえてから人選していきたいと考えています。

ただ、これも推測ですが、これまで日本バドミントンをけん引されてきた方々がある種、私利私欲のためにやっていたのかはわかりません。本当によかれと思ったことが時代の感覚からずれてしまったり、外の感覚とずれが生じたり、これまで許されてきたことが許されなくなってきた時代感、もしくは閉鎖的な中では認められたことが外では認められないといった、そのような観点からずれが生じたとすれば、やはり他の競技を知る人や、日本社会の時代の趨勢の変化を知る人に指摘してもらわなければならない。より客観的に指摘できる人たちをしっかり起用したいと思います。時に、私に対して耳障りの悪いことをおっしゃっていただける方を身近におけるかどうかがポイントかなと考えています。

――ご自身とバドミントンとのつながりは?

村井 前々職でリクルートという会社におりました。江副記念リクルート財団という競技アスリートの奨学金制度や競技団体を助成する制度があり、その理事をしている中で、特にスポーツ部門での選考委員をしており、さまざまな可能性のある選手をインタビューさせていただきました。その際、山口茜さんへのインタビューをさせていただいたり、応援をさせていただいた関係にありました。そうしたこともあり、彼女が就職をした再春館製薬所に激励に行ったこともありました。

そのほか、テレビで多くの国民が視聴するような形でオリンピックや国際大会を見て、応援させていただいていました。

――Jリーグチェアマン時代から選手へのヒアリングを行なってきた。今回は?

村井 当然、すべての価値の源泉は、プレーを楽しむ人であり、競技会で戦う選手たちだろうと思いますので、そうした現場の声をしっかり聞いて、受け止めていく。そういうことに真っ先に取り組んでいきたいと考えています。

――選手が声を上げることについて、どんな考えをもっているか?

村井 スポーツはみんなのものですから、どんどん発言してほしい。みんながスポーツについて意見を表明し、議論するのはいいこと。逆に、団体のトップ、代表理事に対して言いたいことがある人には、ドアはいつも開けておこうと思います。

――火中の栗を拾う役割を引き受けた。相当なプレッシャーを感じる仕事になるが

村井 Jリーグのチェアマンを就任する当時から仲間に言っていたのは、自分自身が緊張する方を選ぶという判断基準があります。私自身、とても重要なことでできるかできないかギリギリのときに緊張するというふうにできていて、楽勝のときにも緊張しないし、絶対無理なときにも緊張しない。Jリーグのチェアマンという役割を求められたときにも全身が震えるような思いがあって、それで「やります」と言ってしまった自分がいました。8年が経過して、今回も本当に緊張感が高い。12月に日本バドミントン協会のある種、大変な窮状を聞いて、逃げてはいけないと感じる自分がいました。自分自身が全力を尽くせば、何かとても大切なことが、この先、スポーツ界に手に入るかもしれない。バドミントン協会が変われば、日本の多くのスポーツが変わる可能性があるかもしれない。そんなことを考えながら、困難な方を選ぼうと思いました。それは8年前と似た感覚かなと。

――「時代の趨勢の変化」という話があったが、スポーツ団体のドメスティックな側面に関する厳しい視線についてどう感じているか

村井 スポーツガバナンスコードを含めて、透明性を高めていく声は日増しに高まっている。これは、自分の解釈ですが、スポーツに対する期待値の高さだと思っているんです。サッカーのワールドカップを見るまでもなく、スポーツは本当に国民を明るくするし、エネルギーを高めてくれる。スポーツの持っている価値というのは非常に高いからこそ、そこに求めるものは要求レベルが高くなるもので、スポーツに対する関心が高くなければ、誰もそんなこと気にも留めないかもしれない。スポーツが持っている価値が高いゆえの、社会的要請、期待だと思います。むしろ求められているから、ぎりぎりの水準でお茶を濁すのではなく、その裏側にある精神をくみ取って、ガバナンスで日本の先頭を切るくらいの、それくらいの意識で改革を進めていきたいなと思います。

臨時理事会後に取材に対応した中村会長(中央右)、村井副会長(中央左)、朝倉副会長(右)、毛利専務理事

村井氏は、「会長になってから何かをするのではなく、就任した今日からフルスロットルで対応していくつもり」と意気込みを語り、すぐにでも日本協会の職務にあたっていくという。

取材・文/バドミントン・マガジン編集部

投稿日:2023/01/22
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