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【クローズアップ】恩師が語る東野有紗のジュニア時代<その1>

東京オリンピックの混合ダブルスで銅メダルを獲得した東野有紗。ジュニア時代からダブルスの才能を開花させ、全国中学校大会や全国高校選抜大会を制覇。福島県の富岡高校3年時の世界ジュニアでは、富岡第一中学校時代からペアを組む1学年下の渡辺勇大と、同種目初の銅メダルを獲得した。

そんな彼女の強さの源を語る上で欠かせないのは、10年前の東日本大震災での経験だろう。富岡第一中(当時。現在はふたば未来学園中)の齋藤亘監督が、教え子のこと、当時のことを振り返る。

※『恩師が語る東野有紗のジュニア時代』<その2>は こちら

※本稿は『バドミントン・マガジン』2021年4月号に掲載している連載『恩師が語るあの頃—トップ選手のジュニア時代—』を編集・再録したものです。

「震災を境に、バドミントンに対する考え方、取り組む姿勢が大きく変わった」

才能を伸ばして

うちのチームは特色ある選手たちが集まっているので、一つの型にはめず、できるだけその子の良さを伸ばしていくスタンスで指導しています。

東野有紗を初めて見た時に感じたのは、〝男の子みたいなプレーだな〞。ジャンピングスマッシュに象徴されるように、瞬発力と跳躍力には目を見張るものがありました。一方、持久力を必要とするものはあまり得意ではありませんでした。当時の彼女はシングルスが中心で、これからもシングルスでやりたいと考えていたようでしたが、彼女の能力的なものを見ていると、ダブルスに対しての適応力が高いのではないか、と感じていました。

とはいえ、積極的に彼女をダブルスプレーヤーにしようと考えていたわけではなく、最初はチーム事情による消極的なセレクトだったと記憶しています。シングルスには選手がすでにそろっていたため、彼女はダブルスで起用するしかなかったのです。

そんなダブルスでのスタートでしたが、予想は当たり、彼女にはぴったりはまりました。試合を経験するごとに吸収し、上達していく様はこちらが逆に驚かされるほどでした。

中学3年生の全国中学校大会。東野(左)の瞬発力や跳躍力は、ジュニア時代から目を見張るものがあったという

転機となった東日本大震災

彼女の大きな転機は、やはり、10年前の3月11日でしょう。

東野は当時中学2年生でした。午前中に卒業式が終わり、体育館の奥では高校生が授業を、私たちは3月末に行なわれる全日本中学生大会に向け、まさに練習を開始したその瞬間でした。あまりに大きな揺れに危険を感じ、部員を校庭に避難させました。

その後、高校生が出てきたのですが、その頃には天井から照明が次から次へと落ちてくる状況で、ある生徒はケガを負い、ある生徒は泣きながら体育館から飛び出してきました。

幸いなことに、練習していた富岡高校は高台にあったので、津波の被害を受けることはなかったのですが、母校・富岡第一中は津波の被害を受けてしまいました。

翌朝、5時頃だったでしょうか。福島第一原発周辺半径10キロに避難指示が出て、全町民に町から出るようアナウンスが流れました。東野も寮生もみな、取るものもとりあえず、町を離れました。せいぜい2、3日で戻れるだろうと考えていたのですが、そのまま富岡に戻れなくなりました。本当に生きるか死ぬかという状況でバドミントンどころではなくなり、部員全員を実家に帰し、東野も北海道に帰りました。

福島県内の猪苗代町に活動拠点を移すことが決まり、練習が再開できる状況になったのは、2カ月後の5月8日です。この時の彼女たちの笑顔、羽根を打っているときの楽しげな姿はきっと生涯忘れられないでしょう。

その一方で、つらく、厳しい現実もありました。練習拠点となった猪苗代町総合体育館「カメリーナ」は、その前日まで避難所として使用されていたところで、家や仕事、家族など様々なものを失った方々であふれていました。

そんな場所でやらせていただくにあたってのあいさつでは、とても「バドミントンで頑張ります」とは、口が裂けても言えませんでした。そのような状況下で、子どもながらに、福島でバドミントンをすることの意味を考えてくれたのではないかと思います。震災を境に、みなバドミントンに対する考え方、取り組む姿勢が大きく変わったからです。

特に東野は、震災前に出場した全日本ジュニアのシングルスで完敗。自信を失い、不安定になっていました。ところが、5月に会った時には「勝ち負けなど言っている場合じゃない。バドミントンをやれるだけで幸せだ」という気持ちになっていることがその姿からわかりました。それまで彼女には、「自信を持ってほしい」と思っていたのですが、震災がきっかけとなり、一つ殻を破ったように感じました。

※『恩師が語る東野有紗のジュニア時代』<その2>は こちら

Profile

東野有紗〈ひがしの・ありさ〉

■1996年8月1日生まれの25歳、北海道出身。富岡第一中-富岡高を経て、2015年に日本ユニシス入社。中学では全中、高校では選抜複優勝。中高の後輩である渡辺勇大とは世界ジュニア混合複で銅メダルを獲得した。以降、社会人でもペアを組み、全日本総合は17年から4連覇。18年全英OPでは混合複で日本人初優勝を果たしている。160㎝、54㎏、右利き、血液型B。

Profile

齋藤 亘〈さいとう・わたる〉

■1972年生まれ、福島県出身。日本体育大を卒業後、2006年より富岡第一中(現・ふたば未来学園中)に赴任した。18年には、全国中学校大会において全種目制覇の偉業を達成。その他、団体戦で3年連続男女アベック優勝を果たすなど、情熱あふれる指導で数々の好成績を収めている。教え子には、桃田賢斗、渡辺勇大、東野有紗など、多くのトップ選手がいる。

 

取材・文/永田千恵

写真/Getty Images、BBM

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