オリンピックのバドミントン競技を支えるモノや人をフィーチャー。第1回は、オリンピックで使用されるシャトルコックの秘密に迫っている。使用されるのは、ソールサプライヤーであるヨネックスの「TOURNAMENT(トーナメント)」。前編では、ヨネックスシャトルの歴史と、その製造工程に迫った。後編では、2008年北京五輪、2012年ロンドン五輪とオリンピック2大会に出場した池田信太郎さんが、シャトルの飛行検査の現場を取材。ヨネックス東京工場で検査員を務める内山大希さん(シャトル製造部主任)に、行なっている飛行検査について、また最高級シャトル「トーナメント」の秘密について話を聞いた。
羽根のブレ、飛行の軌道、回転数を確認
池田 この「飛行検査」では、具体的にはどのような部分を見ているんですか?
内山 羽根のブレの有無、飛行の軌道、回転数、そして飛距離を見ています。飛距離でいうと、いま飛ばしていたのが「3番」をねらって作ったものですが、それが適正な飛距離があるかというところですね。
池田 見ていると、右よりに飛ぶものと左よりに飛ぶものがありますね。
内山 シャトルの構造上、飛行の軌道がいいものはだいたい向かって左に流れていきます。回転が少ないもの、曲がり切らないものが右側に流れることが多いです。
池田 ブレは何によって生じるのですか?
内山 植え込んだ角度などでブレが生じるのですが、見てもらうとわかる通り「トーナメント」になるシャトルと規格外のシャトルでは、見た目ではほぼ判別できません。実際に検査してみないとわからないんです。
池田 植え込んだ角度といわれて見ると、確かに羽根の開きが違うように感じます。
内山 それがわかるのはすごいですね。
池田 何千億回といっていいくらいシャトルは見てきているので(笑)。ヨネックスではないシャトルを渡されて「これは飛ばないな」とか、わかるようになる。シャトルの“顔”が全然違います。
内山 天然のものを使用しているので、一つとして同じものはなく、その結果シャトルも一つひとつ個性が生じるのですが、私たちの手や目で、ねらった「番手」は均一になるようにしていきます。
番手により飛距離は110センチもの差が
内山 次に「飛距離の確認」です。1番手違うと25センチの飛距離の違いが出て、「1番」と「5番」では約110センチの差が出ます。
池田 シャトルの“顔”を見ると、飛ばないほうが開いているように見えます。
内山 加えて、重量の違いが大きいですね。たとえば「1番」「2番」と「3番」「4番」ではコルクの重量を変えています。より重いのが「5番」になります。重いほうがシャトルは飛びます。
池田 1番手違うだけで25センチも変わる。「クリアーで押したい人」、逆に「もっと手前に落としたい人」など、大会のシャトルに合う選手と合わない選手というのが絶対に出てくるはずです。ただ、そこで勝ち上がるために、選手はアジャストしていく。そのためにも、その感覚が一定であるようにすることが必要ですから、シャトルの品質の安定はすごく重要ですよね。
~取材を終えて
池田信太郎「シャトルの飛行検査をしているのは知っていましたが、その見極めを人の目で行なっているというのは意外でした。数値化や機械化ができないものだからこそ、非常に人の目が大事なのかなと実感しました。バドミントンはパワーやスピードを争うものではなく、戦略的なスポーツなので、シャトルの品質や耐久性はプレーや勝負に直接影響するものといっていいほど重要です。安定した飛びと耐久性があるからこそ試合が途切れにくいし、プレーヤーとしてもいろいろなアイディアが出てくるのかなと思います。また、番手が分かれていることで、地球上のどこでやっても、理論上は同じ力で打てば、同じ距離が飛ぶ。競技の公平性や発展性にもつながっていると感じました」
取材・文/バドミントン・マガジン編集部