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【最高の舞台を支える】オリンピックで使用されるシャトルの秘密<前編>

間近に迫ったオリンピック。バドミントン競技の舞台を支えるモノや人をフィーチャーしていく。まずは、勝負の行方を左右する場面で、誰もが注目するシャトルコック。オリンピックで使用されるのは、オリンピックのソールサプライヤーであるヨネックスの「TOURNAMENT(トーナメント)」だ。

BWF(世界バドミントン連盟)の公式球であり、ヨネックスの水鳥シャトルの中でも唯一の日本製である「TOURNAMENT(トーナメント)」は、公開競技だった1988年ソウル大会を含め、東京五輪で9大会連続で使用される。なぜ「トーナメント」がオリンピックで使用され続けるのか。その最大の理由は、飛距離の正確性を含めた高い品質と耐久性による信頼を勝ち得ているからだ。

全英オープンはバドミントンがオリンピック競技となる以前から最高の格を持つ大会とされてきたが、ヨネックスは1984年からその全英オープンの大会スポンサーを務めている。それ以前に使われていた海外メーカーでは2000ダースのシャトルを使用していたのに対して、実際にヨネックスのシャトルが使われたのは300ダースほど。つまり、それ以前に比べ、劇的にシャトルの交換が少なくなったということを意味している。

これは、ヨネックスシャトルの耐久性を表すエピソードとしてよく知られるが、ヨネックスのシャトルが使用されたことで、もう一つの変化がバドミントン界に生まれてもいる。それまで、選手たちは一発のスマッシュでシャトルが潰れる前提でプレーしていたが、それだけでは勝てなくなり、長持ちするシャトルに合わせたプレースタイルになっていった――。

より仔細に解説するなら、シャトルへの信頼をもとに、長いラリーを耐えるプレーをする選手、より繊細なプレーで勝負をする選手、さらに一発で決まらない中で相手の裏をかくような創造性のあるプレーをする選手とバドミントンのプレーの幅が広がっていったと考えられる。そして、それが競技としての面白みを深めていった。

トッププレーヤーは、わずか5グラムのシャトルの落下点に泣き、笑う。シャトルの飛びを信頼すればこそ、ギリギリをねらい、勝負をかけていくことができるのだ。その意味では、ヨネックスのシャトルづくりがバドミントンの歴史を変え、プレースタイルをよりスリリングなものにしたともいえるだろう。

その高い品質と耐久性を可能にするのは、羽根とコルクという天然素材で作られるシャトルを極限まで均一化するために行なう細やかな工程、そして職人の手と目だ。

特に羽根は、それぞれの長さや太さ、骨格が少しずつ異なり、しかも1羽のガチョウから「トーナメント」として使える羽根はわずか2枚程度。個体差がある膨大な羽根から16枚が厳選され、1つのシャトルになる。その後も、一つひとつのシャトルにばらつきがないように、確かな目を持つ職人がいくつもの検査でチェック。これをすべて国内の工場で行なっている。

 

オリンピック使用球『TOURNAMENT』はこうして作られる!

1. 羽根とコルクの選別

羽根とコルクをそれぞれシャトル用にカットし、羽根は曲がりや反りによって選別を行なう。1枚ごとに異なる特徴を踏まえ、出来上がりのバランスも考慮しながら16枚ごとに選定される。コルクは重さを計量して重さごとに選別。シャトルは4.74~5.50グラムと重さに制限があり、コルクの重さによって総重量を調節することで、ねらった飛び番号にする。

カットされた羽根。1枚1枚でその様子には違いがあるほか、それぞれの羽根の中央に走っている軸の太さなどもさまざま。ちなみに、コルクに植え込まれる前の羽根はもう少し軸が長い

1枚1枚でその様子には違いがあるほか、それぞれの羽根の中央に走っている軸の太さなどもさまざま。ちなみに、コルクに植え込まれる前の羽根はもう少し軸が長い

2.羽根植え

カットと選定を終えた16枚の羽根をコルクに植える。精密な機械を用いて植え込んでいく。

写真のような角度と深さで羽根が1本1本植え込まれる

3.微調整

16本の羽根がコルクに植え込まれたあと、安定した飛行が生まれるように、工員が全体の形状や羽根の広がり方のバランスをチェック。バランスが悪ければ、羽根を手で植え替えることもある。

シャトル一つひとつを手に取って、軸に傷がないかなどもチェック

4.飛行の検査

シャトルが出来上がったら、飛行距離(12メートルが基準)、飛行軌道、ブレなどをチェックする。機械によって打たれたシャトルが飛んでくる様子を検査員が一つひとつ目視で行なう。

検査員は飛行の様子をチェックするとともに、床に落ちる前にシャトルをキャッチして、そのまま落下するであろう地点にあるケースにシャトルを分けていく。この時点で軌道や距離で不適切なものは、振り分けられる

5.耐久性の検査

飛行の検査のほかに、耐久性の件さも定期的に行なっている。工員によって一定時間、実際にシャトルを打ち合うものと、機械を用いて行なうものの2つの方法がある。

6.外観&傷の検査

飛行の検査をクリアしたシャトルは、最終的にもう一度、経験豊富な工員の目と手によってチェックされる。軸や羽根に傷はないか、接着が甘くないかなど、複数の項目を短時間で効率よく検査する。

7.出荷

箱詰めされたパッケージに職員が検定済みのシールを貼り、出荷準備完了。

取材・文/バドミントン・マガジン編集部

取材協力/ヨネックス

 

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