6月13日、男子シングルスで数多くのタイトルを獲得してきたリー・チョンウェイ(マレーシア)が、現役引退を発表した。
チョンウェイは2008年北京五輪、12年ロンドン五輪、そして16年リオ五輪の3大会で銀メダルを手にしたほか、世界選手権準優勝3回、全英OP優勝4回など、長年に渡って男子シングルスのタイトル争いの主役を演じ続けた。スーパーシリーズ(現ワールドツアー/Super500以上)で手にしたタイトル数は全部で47。地元のマレーシアOP(Super750)では合計12回の優勝を誇り、日本で開催されるジャパンOP(ダイハツ・ヨネックスジャパンOP)でも6回頂点に立った。ヨネックスの契約選手ということもあり、毎年ジャパンOPに参戦しては、日本のファンの前で卓越したプレーを披露していた。
そんなレジェンドに突然のアクシデントが襲う。昨年7月、悲願の世界王者をめざして出場する予定だった世界選手権(8月/中国・南京)を欠場。呼吸器系の疾患が理由とされたが、その後、台湾での治療中に鼻の早期ガンであることが発覚。そのまま長期療養に入っていた。今年に入ってからは地元メディアに取り上げられる機会も増え、4月初旬に開催されたマレーシアOPでは、表彰式に登場。男子シングルス決勝を争った林丹(リン・ダン)と諶龍(チェン・ロン/ともに中国)の間に立って二人の活躍を祝福すると、3人で記念撮影を行なうなど、ファンの前でも順調な回復を見せていた。チョンウェイ自身も2020年の東京五輪出場、そして悲願の金メダルに向けた復帰に意欲を見せ、6月に入ってからは軽度のトレーニングを始めていたという。
世界中の誰もが待ち望んだチョンウェイの復活。しかし、その願いは残念ながら届かなかった。トレーニングに励むチョンウェイは、医師から「強度のトレーニングを続けると(ガンが)再発するリスクがある」と告げられたのだ。マレーシア国民のために、そして自分のためにリスクを犯しての挑戦も考えたというチョンウェイだったが、自ら下した決断はこうだった。
「僕は引退することを決めた。残念だけど、東京(五輪)に行くことはできなくなった。金メダルも(母国に)届けることはできない。でも、僕はこれまで全力を尽くしてきたのだから、後悔はない」
13日の引退会見。地元メディアに囲まれ、カメラの前で事実を伝えるチョンウェイは途中、少しの間だけ口を閉ざし、涙を流す。そのシーンは、まだ引退を信じきれなかった多くのファンに、悲しく、切ない現実を伝えるのに十分な時間だった。
チョンウェイは、家族やコーチ陣、マレーシアチームの仲間などに感謝の言葉を送った。それと同時に、コートでしのぎを削った戦友、そして後輩たちにもメッセージを送っている。
「これまで一緒に戦ってきた林丹、タウフィック(・ヒダヤット)、ピーター・ゲード、李炫一(イ・ヒョンイル/韓国)のみんな、僕の時間は終わったよ。僕たちが、いつも素晴らしい戦いができたことにとても感謝している。そして、僕らの素晴らしい時代は終わろうとしているけど、桃田(賢斗)、ビクター(アクセルセン)、石宇奇(シー・ユーチー)、リー・ジジャには、次の時代をしっかり担ってほしい。そして、バドミントンがこの地球上で最高のスポーツであることを、どうか世界に知らしめてくれ」
リー・チョンウェイ、36歳。
世界中のファンから愛された英雄は、後輩たちに未来を託し、静かにラケットを置いた――。
文/バドミントン・マガジン編集部
写真/BADMINTONPHOTO
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