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【追悼コラム】ロンドン五輪銅メダリスト・鄭在成を偲んで

ロンドン五輪の男子ダブルスで銅メダルを獲得した鄭在成(左)と李龍大
ロンドン五輪の男子ダブルスで銅メダルを獲得した鄭在成(左)。右は李龍大

3月9日、元韓国代表の鄭在成(ジュン・ジェサン)さんが亡くなった。 世界バドミントン連盟の記事などによると、死因は急性心不全。実業団チームの監督を務めていた鄭さんを、朝、妻が起こしにいったときには冷たくなっていたという。35歳での早すぎる死だった。

鄭さんはロンドン五輪の男子ダブルスで銅メダルを獲得した。とはいえ、日本人にとって多く知られた存在ではなかったかもしれない。顔と名前がより広く知られていたのは、19歳で北京五輪の混合ダブルスを制したパートナーの李龍大(イ・ヨンデ)のほうだ。 だから、もしかしたら鄭さんは「李龍大の元パートナー」といったほうが、ピンとくる人が多いかもしれない。

個人的には、この鄭さんのプレーのファンだった。男子ダブルスといえば、今も昔もファンタジスタを体現したようなインドネシアのプレーが抜きん出ておもしろい。 だが、いまから約10年前、インドネシアと肩を並べ異なる魅力を放ち、世界ランキング1位争いをしていたのが鄭在成/李龍大ペアだ。

プレーの定番スタイルには、時代によって流行みたいなものがある。鄭さんが活躍したのは、「シャトルをしっかり奥まで返す」スタイルから、現在の「なるべく上げないノーロブ」スタイルへの移行期だ。 だからまだ、どの選手たちにも「しっかり奥まで返す」というプレーがいまよりやや多くて、鄭さんは相手に奥まで返させたあとからの攻撃がうまかった。

とくに終盤の勝負所で、彼がジャンプして滞空時間の長いエビ反りの姿勢から打つスマッシュやドロップには忘れられないものがある。伝家の宝刀を抜くように彼がシャトルに跳びつくと、「出た~!」とたくさんの観客とともに興奮したものだ。 現在ではなかなか見られないプレーで、ダイナミックさにあふれていた。

ただ、いま思うとあの華やかなジャンピングスマッシュも心臓に負担が大きいものだったのではないかと思うと、懐かしむことを躊躇する。

168㎝と小柄な体には分厚い筋肉がついていて、その場にたたずんでいるだけで迫力があった。その姿は地道で厳しいトレーニングを積むことで知られる韓国らしさを体現しているようで、鄭さんの強い個性になっていた。「根性」という言葉を想起させる人だったと思う。

だから、鄭さんには韓国らしい「根性」をもっと若い選手たちに伝えてほしかった。指導者としての期間は短かったが、彼が体現したプレーを受け継ぐ選手が誕生することを心から願う。それが供養にもなるからだ。

最後に、鄭在成さんが世界のダブルス界を引っ張り、素晴らしいプレーの数々を見せてくれたことに哀悼の意を表したい。

屈強なフィジカルと不屈の闘志で、男子ダブルスのトッププレーヤーとして活躍した鄭在成。「オンリー・ワン」の輝きを放つ選手だった

鄭在成(ジュン・ジェサン)
1982年8月25日生まれ。韓国出身。2006年から李龍大と組み始め、全英OPを2度制したほか、世界選手権では銀メダル2回、銅メダル1回。2012年のロンドン五輪で銅メダルを獲得したあと引退し、指導者の道を歩んだ。2018年3月9日死去。最高の世界ランキングは1位(男子ダブルス)。

文/鈴木快美

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