2015年9月、ヨネックス株式会社が発売した「DUORA10」。後に「7」「6」「Z-STRIKE」と続くDUORA(デュオラ)シリーズは、バドミントン界のエポックメーキングとして、語り継がれていくであろうラケットだ。
最も大きな特徴は、表裏が異なる形状であることだ。ラケットの表面と裏面を使い分ける発想がなかったバドミントンにおいて、フォアハンドで使う面、バックハンドで使う面を区別することを提案した。
いまや、世界のトップ選手から一般のユーザーまで、幅広い層に受け入れられている画期的なラケットDUORAシリーズ。その高い性能をプレーヤーに広めるため、ヨネックスのグローバル戦略室が動き出す。
第1回 技術開発部の挑戦は>> こちら
第3回 商品化から発売、そして“拡散”へ>> こちら
最終回 シリーズ完成! そして、その先へ――>> こちら
★バドミントン界のエポックメーキング
ヨネックス社が生み出す最高の技術を、全世界のプレーヤーに広める。それが、グローバル戦略室の仕事だ。
新しいアイテムで製品化のメドが立つと、宣伝部、営業部など多くの部署が相互に関わっていく。「我々は、ラケットのマーケティングに関するすべてに、顔と口を出します」とは、グローバル戦略室・金子幸也の言葉だ。
表裏の形状が異なるラケットの製品化が東京本社のマーケティング課に伝えられたのは2013年秋。お披露目の日、「ウッド(木)のラケット時代から携わってきた」という金子は驚愕した。
「木とかアルミとか素材の違いはあっても、ラケット面の表と裏が違う、フォアハンドとバックハンドで打つ面を変えるというのは、想像の域を超えていました」
入社して34年。ウッド、アルミ、カーボン、フルカーボン……、あらゆるラケットに関わってきた。その金子がいう。
「表裏の形状が異なるラケットの登場は、バドミントン界のエポックメーキングです」
★インパクトを求めたデザイン
同室の和田治久が、そのラケットを見た第一印象は、「なんだ、これは!?」。強豪・埼玉栄高校出身で、2010年のインターハイ・男子シングルス王者も、表裏が異なる形状という発想に驚き、戸惑った。そして、試打してみると、その性能に魅せられた。
「打球の質が違うんです。とくに、バックで打つ球の質、回転の速さがすごくいい。自分がトップレベルでやっていたとき、使ってみたかったなと思いました」
実際に使って、このラケットのよさを実感してほしい。製品に惚れ込んだ金子たちは、戦略を練った。プレーヤーが表と裏を識別できるよう、デザインにもアイディアを出した。表裏の形状が異なるという特徴を出せているか、1本のラケットとしてカッコよく見えるか……。
「ラケットには、『売れる色』があるんです。ただ、これはいままでにないラケット。体育館の一番奥で打っていても、使っていることがわかるぐらいのインパクトが欲しいと思いました」(金子)
デザインは、フォア面がオレンジ色、バック面が緑色に決定(右利きの場合)。斬新なカラーリングはもちろん、プレーヤーが使用中にフォア面とバック面を認識できるように、デザインにも工夫が施されていた(下写真)。
そして、商品名は約60種類の候補から、二つを表す英語「duo(デュオ)」を元にした「DUORA(デュオラ)」と決まった。
2015年9月、さまざまな“新機軸”をまとった「10」がいよいよ世に送り出された。
<文中敬称略/第3回へ続く 取材協力/ヨネックス株式会社>