【新春特別インタビュー】ヨネックス株式会社・林田草樹社長〜その2

ここでは2017年の新春特別企画として、バド×スピ!限定のスペシャル・インタビューをお届けします。ご登場いただくのは、日本のメーカーとして世界のバドミントンをリードするヨネックスの林田草樹・代表取締役社長です。選手としてもインターハイでの優勝経験を持つ林田社長に、自身のバドミントンとの関わりや今年の会社としての意気込みをうかがいました。

We love badminton

はやしだ・くさき◎1957年10月5日、熊本県生まれ。中学1年からバドミントンを始め、中3時に全国中学校大会(当時は都道府県対抗の団体のみ)で3位に。九州学院高3年時には、熊本県の選手として初めてインターハイ(男子シングルス)を制す。その後青山学院大に進学し、4年時にインカレ男子シングルス4位に。1980年にヨネックス株式会社に入社し、2015年6月に代表取締役社長に就任。

 

バドミントンに“世界感”が出てきた2016

──続いては、ヨネックスの代表取締役社長として感じていること、考えていることについてうかがいたいと思います。まず、2016年を振り返っていただきたいのですが、どんな1年だったでしょうか?

林田 2016年は、私が初めて全英OPにプレゼンターとして行きましたが、林丹(中国)選手が6回目の優勝を飾ってくれました。ここが始まりでしたね。その後、5月のトマス杯でデンマークがアジア以外の国で初めて優勝して、リオ五輪で日本人選手が活躍して、オリンピック後の初のスーパーシリーズのヨネックス・オープン・ジャパンでも(リー・)チョンウェイ選手が頑張ってくれました。そして全日本総合の女子シングルスで(ヨネックス所属の)佐藤冴香選手が優勝して……非常に思い出深い1年でした。バドミントンにとっても会社にとってもいい流れというか、バドミントンという競技にワールドワイドな“世界感”というものが出てきた年かなという思いでいます。

――確かに世界的に見ても、トマス杯でデンマークが優勝したのは大きなニュースでした。

いままで中国がトマス杯をずっと制していて――前回は日本が優勝しましたが――中国の独壇場か、あるいはインドネシアだ、マレーシアだという中でのヨーロッパの快挙でした。メーカーとして用具を使ってくれているとか使ってくれていないとかではなく、バドミントンの世界感として最高にいいきっかけになったなと。それはつくづく思いますね。

──これらの快挙を、御社が陰で支えていたことも大きいのではないでしょうか。

林田 でも、いまもいったように、メーカーとしてという以前に、バドミントンの環境がどのように変わっていくか、またわれわれがどのように仕掛けていくかというのが重要なところなので。このあたりのことが、少しでも世界感の刺激になっていけばプラスになるだろうなと思います。

──「世界感」という言葉が出てきていますが、ほかの競技と比べてバドミントンが異なるという思いなのでしょうか?

林田 バドミントンという競技は、もっと世界でメジャーになっていかなければいけないスポーツですし、なれるスポーツだと思っています。そう考えると「アジア感」ではダメなんです。もちろん、“母体”としてアジアのほうが盛んなので、そういった要素が大切なのは事実ですが、バドミントンをもっとメジャーにしていくには世界感というものが、どうしても必要だと思っています。

──“世界感”ということであれば、リオ五輪では日本選手が初めて金メダルを取ったり、目覚ましい活躍をしました。また、ロンドン五輪で中国が全種目制覇していた牙城が崩れました。

林田 非常にいいことだと思います。女子シングルスではスペインの(キャロリーナ・)マリン選手が優勝して、2位はインドの(プサルラ・)シンドゥ選手だった。いまインドではバドミントンブームがすごいようですし、中国に次ぐいくつかの主要国が力を付けていくのは非常に頼もしい。その意味では、バドミントン全体がもっと羽ばたけるのではないかと思っています。

──リオ五輪での日本選手の活躍はどうご覧になりましたか。

林田 日本バドミントン協会さんや、それぞれのチームの指導者の方々がジュニアのころから選手を育てた、その結果がようやく実を結びつつあるんだと思います。その意味では、日本のバドミントン全体にとって非常にプラスになりましたよね。髙橋選手、松友選手、奥原選手、山口選手もそうだし、男子もそう。私は現地にいたので、金メダルの歓喜も味わうことができましたが、これからも中学・高校を含めてのジュニアの環境を整えていけば、世界に通用する選手が着実に増えていくと思います。

――オリンピックといえば、御社のサポートもありました。

林田 リオ大会で、公開競技だったソウル大会から8大会連続となりますが、シャトルとコートマットなどの用具提供、ならびにストリンギングサービスを提供しました。ストリンギングサービスはストリングの微妙な張り加減がパフォーマンスを左右するだけに、選手にとってはなくてはならない活動です。8大会連続というのは当社のサービスが信頼を得られていることでもありますのでとてもうれしく思います。

we love

2017年、18年を盛り上げていくのが我々の使命

──明けて2017年、御社としてどんなことをやっていきたいとお考えですか?

林田 2016年と少し重複しますが、世界的なバドミントンの普及・発展への活動を継続して行なっていきたいです。もちろん、大小いろいろな大会への協賛も大事ですが、私たちは15年の3月に『レジェンド・ビジョン』を立ち上げました。タウフィック・ヒダヤット、ピーター・ゲード、林丹、リー・チョンウェイというレジェンドたちの「世界的にバドミントンをメジャーにしたい」という思いに我々が力添えしながら、いろいろな国で子どもたちに夢を与えていくという活動です。これこそが、世界に根をしっかりと張っていくような活動につながっていくのかな、と。

2016年は日本での開催をやむなく中止させていただきましたが、日本の人たちにもそういう夢を与えたい。日本のレジェンドにも手伝っていただいて、多くの人にバドミントンを好きになってもらいたいし、興味を持ってもらいたい。こういった活動は、日本だけでなく全世界でやっていかなければいけない。そんな思いで2017年はやっていきたいです。

──レジェンド・ビジョンのような活動以外ではいかがでしょうか。

林田  大小いろいろな大会を行なうことも大切です。しかも、大会のための大会ではなくて、お客さんのための大会、お客さんが来て喜んでもらう大会にするにはどうすべきかということを、もっと真剣に考えていく必要があるでしょう。

ヨネックス・オープン・ジャパンでは、長年お願いしていた演出照明を2015年から実施していますが、ああいった取り組みを“観る側”から考えていかないといけません。“やる側”は試合を消化すればいいという考え方がまだあります。その辺の考え方がようやく変わってきていますし、BWF(世界バドミントン連盟)のやり方も含めて、観る側に立った考え方になってきていると思います。そういうものが積み重なって初めて、「お客さんが喜ぶバドミントンをやってみよう」という刺激になってくるのではないでしょうか。

――ヨネックス・オープン・ジャパンでの演出照明は、おおむね好評のようです。

林田 一大会を通した観客数は2013年に2万人をクリアし、演出照明を取り入れた15年に2万5000人に達し、2016年は2万9000人くらい(編集部注:大会発表は29,030人)入るようになりましたが、そうじゃなきゃいけないんです。でも僕からいわせると、それでも足りない。まだまだ“観る競技”には至っていないんです。土日はやはり超満員にならなきゃいけないし、極端な話、日本人選手が勝ち残らなくても「世界感を味わいたい」ということで、もっと人が集まるようにならないといけない。そういう意味では物足りない、という思いがありますね。

――観る楽しみをもっと感じられるようになれば、競技への関心もさらに高くなります。

林田 あと「パラ・バドミントン」への支援についても、今後力を入れていきたいと考えています。東京パラリンピックから正式種目になり、パラ・バドミントンはこれからますます注目を浴びることになるでしょう。当社社員の豊田まみ子選手の活躍に期待するとともに、すべての人が楽しめるスポーツとして、また新たなバドミントンの可能性が広がることを確信しています。

──世界全体で見てもバドミントンの熱は高まってきていますが、その中で2017年、御社としてどういう強みを生かしていきたいとお考えですか?

林田 それについては「メイド・イン・ジャパン」の質の高いモノづくりというのが一番の強みでしょうね。これは我々の会社としての業績にも直結していきます。2016年は会社のスローガンとして『挑戦』という言葉を掲げて、質を追求しようと呼びかけました。質というのは人間の質もあるし、品質もあるし、いろいろな部分の質を各々が考えて、それを高めていこうというスローガンを挙げましたが、失敗もあったし、お客様が全部を喜んでいただいたわけではないので、大きな反省もあります。

――なるほど。それを受けて2017年はどのようなスローガンを?

林田 『No.1への挑戦』というスローガンを掲げていきます。「自分は誰よりも多くの店を回ります」、あるいは「誰よりもヨネックスファンを増やしてみせます」など、各々が「No.1」への目標を立てて、そこに挑戦していく。みんなが掲げた「No.1」への目標をそれぞれが達成していけば、必然的に本物になっていく。本物になってこそ、最高の品質で最高のサービスが提供できたといえる。そんな会社にしていきたいし、そういう人材をつくっていきたい。課題を自らが見つけて、自らが答えを出して挑戦していける力を持つ社員の育成。そんなことをスローガンにしていこうと思います。

──それによってバドミントンが盛り上がっていけば、なおいいと。

林田 そうですね。我々が2017年、バドミントンそのものの火を燃やし続けなければ、と思っています。2020年に東京オリンピックがあるとはいえ、16年に盛り上がったものがひと段落しそうな感じもあります。オリンピックがある1年前から盛り上がるのではなくて、大事なのは2017年、2018年です。2019年は黙っていても盛り上がるから、この17、18年をいかに盛り上げていくかというのが、我々の使命の一つだと思います。

we love
2016年のスーパーシリーズファイナルでもプレゼンターを務めるなど、世界のバドミントンシーンと精力的に関わっている(左端が林田氏)
投稿日:2017/01/01
■関連キーワード

人気記事ランキング

閉じる